今や企業にとってはハラスメントの防止や労働環境の整備に加えて従業員のメンタルヘルス対策も必須といえます。従業員のメンタルが安定すれば、離職率の低下や生産性の向上、企業の利益向上にも繋がることでしょう。
昨今、従業員のメンタルケアの一つとしてEAP(従業員支援プログラム)が注目されています。
この記事では700社以上の企業にEAPを導入した実績があるプロが、EAPの意味や具体的な対策の内容をわかりやすく解説します。
目次
EAPとは従業員のメンタル不調対策を目的とした支援プログラムです。専門の相談窓口を設け、従業員のメンタルに不調をきたさないように、あるいはメンタル不調に陥ってしまった従業員に対して精神的・身体的ケアを行っていきます。
EAPは「Employee Assistance Program」の略で、国際EAP協会では一般的に以下の2点が専門家によって提供されるサービスであると定義しています。
2つ目について補足すると、従業員の個人的な問題(健康、メンタル、家族、借金などの経済的問題、アルコール、薬物、法律、感情、ストレス)の整理や解決を援助することを指します。(出典:国際EAP協会 『EAPの定義』より引用)
続いてEAPの具体的な施策例や導入する意義、EAPが生まれた歴史をご紹介します。
EAPには従業員のメンタルヘルス不調への対策だけでなく、組織レベルで取り組む施策なども含まれます。ここではよくあるEAPの施策例をご紹介します。
EAPそのものは上述の通りあくまで従業員を支援するためのプログラムの名称になるため、実際に何をするかは以下を参考にしてください。
専門のカウンセラーが従業員のメンタルについてカウンセリングを実施します。産業医や産業カウンセラーが対応することもできますが、EAPとはカウンセリングをする目的が異なります。
2015年12月より、労働安全衛生法の改正により従業員50名以上の事業場においてストレスチェックの実施が義務づけられました。50名未満の場合は当面の間は努力義務となります。
ストレスチェックそのものは、医師や保健師などが対応(労働安全衛生法に記載)することになっていますが、ただ実施するだけではなく、チェックの結果、高ストレスを抱えている従業員がいた場合には適切なフォロー(上述のカウンセリングなど)が必要となります。
従業員向けにメンタルヘルスに関するセミナーや研修を実施します。セミナーを通して自分自身のメンタルヘルス不調への対応力の向上や部下に対して働きかけるスキルの向上など、内容・受講者ごとによって様々な効果が期待できます。
メンタルヘルス対策を実施するためには個人や部署レベルでの取り組みだけでなく、抜本的に社内の体制を整える必要もあります。そのような組織が抱える問題点を明らかにし、さらに改善することは非常に難しいため、コンサルティングの利用も必要となります。
また、そもそも何からしたらいいのか、どうしたらいいのかイメージがつかない場合もコンサルティングを活用するとよいでしょう。
予防や悪化の防止だけでなく、既にメンタルに不調をきたしている従業員の方もいる場合があります。そういったケースでは①のカウンセリングなどを通して復職に向けた支援が必要になります。
休職中の支援だけでなく、職場復帰後の支援も重要です。
EAPの目的や意義としては「従業員のストレスを把握する」「メンタルケアを行って不調を予防する」「職場の生産性を向上させる」などが挙げられます。
定期的にストレスチェックやカウンセリングを行うことで、あるいは管理職が日常的に目を配ることで、従業員が抱えているストレスの度合いや内容を把握することができます。
そのうえで、強いストレスを感じている従業員、メンタルに不調をきたすおそれが高い従業員に対しては、早期にケアを実施して、場合によっては医療機関の受診を勧めることで、不調の予防が可能です。こうしてストレスなく従業員が働けるような環境を構築することで、職場全体の生産性の向上にもつながります。
また、従業員にとっても以下のような悩みを相談窓口に相談することでストレスの軽減や解決の糸口を模索することができるようになります。
EAPは企業にとっても、従業員にとっても、非常に大きなメリットをもたらす可能性を秘めています。さらに、後述する厚生労働省が推進する従業員のためのメンタルヘルス対策とも関連している点もポイントです。
現代はストレス社会だと言われていますが、その裏付けとなるデータも出ています。厚生労働省の『令和4年労働安全衛生調査(実態調査)』によると、「仕事に強い不安や悩み、ストレスとなっている事柄がある」と回答した労働者は82.2%という結果が発表されています。
「仕事の失敗や責任の発生等(35.9%)」「会社の将来性(23.1%)」「顧客、取引先等からのクレーム(21.9%)」などの悩みを抱えている方が多く、大多数の人が仕事や職場に対して何らかのストレスを抱えているということになります。
「仕事や職業生活に関するストレスを相談できる人がいる」と回答した人は91.4%でしたが、逆に言えば1割近くの人が誰にも相談できず、一人で抱え込んでしまうリスクがあるということになります。また、「相談できる人がいる」と回答した人は9割を超えたものの「実際に相談したことがある」と回答した人は69.4%に留まりました。
多くの人がストレスを抱えながら働き、その中には誰にも悩みを相談できていない人もかなりいることがうかがえる調査結果となりました。
(出典:令和4年労働安全衛生調査(実態調査)、調査者:厚生労働省、調査期間:令和3年11月1日~令和4年10月31日、調査対象:全国18,000人の常勤労働者や派遣社員)
EAPの起源は1960年代にまで遡ります。アメリカでは当時、第二次世界大戦でメンタル不調に陥った兵士がうつ病やアルコール、薬物依存に陥ってしまうケースが頻発し、社会問題となりました。心に傷を負った兵士たちを救うべく、EAPが形作られ普及してきたのです。
日本でも1980年代頃からEAPが注目されはじめ、導入する企業が出てきました。2000年以降、過重労働やハラスメント、それらによるメンタルの不調などが深刻な社会問題化したことによって企業においても職場環境の改善に本腰を入れはじめるようになりました。さらに近年では働き方改革やコンプライアンス意識の高まりによって、従業員のメンタル対策も企業の重要な責務となってきています。その一環として多くの企業がEAPを導入しているのです。
職場で行うメンタルヘルス対策にはさまざまなものがあります。EAPはその一つの手段です。相談窓口を設けることで、従業員のストレスの把握や早期のケアという点に関して大きな期待ができます。
EAPには実施する体制によって以下の2つに大別されます。
ここではそれぞれの特徴やメリット・デメリットについてご紹介します。
社内で実施する内部EAPでは、社内に相談窓口を設けて産業医やカウンセラー、相談員を常駐させ、従業員からの相談に乗る、ストレス状況を把握する、ケアを実施するといったメンタルケア対策を推進します。
内部EAPのメリットとして主に以下のようなことが挙げられます。
内部EAPのデメリットとして主に以下のようなことが挙げられます。
外部EAPとは社外に相談窓口を設ける方法です。EAPサービスを提供している法人などと契約を結び、委託先の産業医やカウンセラー、相談員などが従業員の相談に乗ったりメンタルケアを実施したりします。
外部EAPのメリットとして主に以下のようなことが挙げられます。
外部EAPのデメリットとして、主に以下のようなことが挙げられます。
Eパートナーでは全国出張型のカウンセリング体制を整えておりますので、全国に支店や事務所がある企業様の場合でも柔軟に対応することが可能となっております。お気軽にご相談ください。
内部EAPと外部EAPは、やることや目的は基本的に同じですが、社内機関によるものか社外機関によるものかという実施体制が異なります。
特徴 | メリット | デメリット | |
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内部EAP | 社内リソースで実施 |
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外部EAP | 社外リソースで実施 |
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メンタルヘルス対策が必要な事業場が全国にあり対面でのカウンセリングを希望している場合、対応できない事業場もでてくる |
厚生労働省が2006年に定めたガイドライン『労働者の心の健康の保持増進のための指針』では、メンタルヘルス対策のために特に重要な『4つのケア』について挙げており、3つ目と4つ目のケアは上述の内部・外部EAPとも密接に関連しています。こういった点もEAPを導入する企業の増加に繋がっているのかもしれません。
ここでは4つの重要なメンタルヘルスケアについて、それぞれどういった内容か順番に見ていきましょう。
4つのケア | 概要 |
---|---|
セルフケア | 従業員が自分自身で行うメンタルヘルスケアのこと。 |
ラインによるケア | 部門単位で管理職が従業員に対して行うメンタルヘルスケアのこと。 |
事業場内産業保健スタッフ等によるケア | 事業場(同じ建物または同じ敷地内の建物群)内に産業医やカウンセラーなどが常駐して行うメンタルヘルスケアのこと。内部EAPの利用がこれに該当します。 |
事業場外資源によるケア | 社外の専門家によるメンタルヘルスケアのこと。外部EAPの利用がこれに該当します。 |
現代社会では大多数の方が大なり小なりストレスを抱えながら働いています。中には疾患を患って働けなくなってしまった方、自ら命を落とされてしまわれた方もいらっしゃいます。
今や企業にとっては従業員のメンタルヘルス対策も必須事項です。一方で、社内ではケアに割けるリソースも限られています。また、第三者だからこそできる対策もさまざまあります。今後、ますます外部EAPの普及も進んでいくでしょう。
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